「自分がすることを愛せ。子供の頃、映写室を愛したように」
シチリア島・ジャンカルドの駅からローマへと旅立つトトを、アルフレードはそう語りかけ送り出す。
映画「ニュー・シネマ・パラダイス」の中のワンシーンなのだが、
この映画の有名なオープニング曲を聴く度に、そのセリフを思い出す。
「ニュー・シネマ・パラダイス」はシチリア島の田舎町で映写技師として働くアルフレードと、
戦争で父親を失い貧しい母子家庭で育つトトが、映画を通して心を通わせ絆を育んでいく、
郷愁と感傷、映画への愛情が描かれたジュゼッペ・トルナトーレ監督の作品だ。
この映画を初めて観たのはいつだったろうか。
もう、それを忘れるくらいに何度も観てしまっているが、
いつも観終わった後には、何か言い表せぬ爽やかで前向きな感動を味わっている。
映画全体に漂うイタリアの陽気な雰囲気、劇中に流れる明るく朗らかなの曲とは対照的に、
作品中に描かれる出来事、人々の心理は現実の人生同様、決して明るいものばかりではない。
しかしながら、この作品を観終わって得られる“温もり”とはたぶん、サクセスや栄誉といった人生の“輝き”から離れ、
否応なしに訪れる人生の悲哀やすれ違い、その中でさえも尚人を想い、
人生を肯定していこうという一貫した深いヒューマニズムに貫かれているからだろうと思う。
映画途中、傷心のトトにアルフレードは語りかける。
「一度村を出たら、長い年月帰るな。年月を経て帰郷すれば、友達や懐かしい土地に再会出来る」
そして、
アルフレードの言葉の通りに村を出た後戻らず、都会での成功を収め、
30年後に帰郷するトトの姿が何よりも印象深く描写されている。
街の姿も人々も、何もかもが変わり、しかし、過ぎ去った日々は変わらずに輝き続けていく。
そう、人生の中で身を切られるかのような決断をした者ならば、
きっと誰しもがそんな想いを噛み締めることだろう。
そして、アルフレードの想いを改めてトトが知る、圧巻のラストへと導かれていく。
人生とはなんだろう?
真の幸せとはなんだろう?
この映画を観るといつもそんな思いを抱く。
心のパワーが落ちた時、僕はこの映画に触れたくなる。
(※ジャンカルドは劇中の架空の村)